1. 外国人労働者の平均賃金と労働時間の概要
外国人労働者の「一般労働者(正社員・契約社員など)」の月額給与は平均267,700円で、所定内労働時間は155.8時間、超過労働時間は19.8時間となっています。この数値は、日本人労働者の平均と比較して低めであり、特に在留資格ごとの違いが顕著です。
在留資格別の給与(一般労働者)
在留資格 |
月額給与 |
所定内労働時間 |
超過労働時間 |
専門的・技術的分野 |
285,900円 |
158.6時間 |
17.5時間 |
特定技能 |
232,600円 |
159.9時間 |
23.8時間 |
技能実習 |
204,100円 |
163.2時間 |
26.2時間 |
身分に基づくもの |
302,300円 |
149.5時間 |
18.5時間 |
このデータからも分かるように、「専門的・技術的分野」や「身分に基づくもの」に該当する労働者の給与は高く、特に「技能実習」や「特定技能」のカテゴリーでは給与が低い傾向にあります。
2. 在留資格ごとの賃金格差の背景
外国人労働者の給与に格差が生じる背景には、いくつかの要因が考えられます。
① 職種と業務内容の違い
在留資格ごとに従事できる職種が異なります。「専門的・技術的分野」の労働者は、高度な知識や技術を必要とする職業に就くことが多く、給与も相対的に高くなります。一方で、「技能実習」や「特定技能」の労働者は、単純労働や肉体労働に従事することが多く、給与水準が低めになります。
② 雇用形態の違い
「専門的・技術的分野」の労働者の71.1%が正社員・正職員として雇用されているのに対し、「技能実習」の場合、期間の定めがある契約(41.8%)が多く、安定した雇用形態を得にくい状況にあります。
③ 労働時間の違い
「技能実習」の労働者は、他の在留資格と比較して長時間労働になりがちです。所定内労働時間が163.2時間と最も長く、さらに超過労働時間も26.2時間と高めです。それにも関わらず給与が低いため、賃金の面では不利な状況が続いています。
3. 技能実習生の厳しい労働環境
「技能実習」制度は、本来は途上国の人材育成を目的としていますが、実際には低賃金の労働力として活用されているケースが少なくありません。
また、調査によると「技能実習」の労働者の多くは、日本語能力の不足によるコミュニケーションの困難さや、紹介会社への高額な費用の負担といった問題にも直面しています。
さらに、転職に関しても技能実習生は厳しい制約を受けるため、労働環境の改善が難しいという課題があります。例えば、技能実習生のうち「10%以上30%未満の賃金減少」を経験した人が17.7%に上るなど、給与の面での不利な状況が続いています。
4. 身分に基づく外国人の優遇傾向
「身分に基づくもの」とは、日本に永住権を持つ者や日本人配偶者などを指します。このカテゴリーに属する外国人労働者は、比較的自由に職業を選べるため、賃金水準が高めになっています。例えば、月額給与は302,300円で、外国人労働者の中では最も高い水準です。
また、「身分に基づくもの」の外国人労働者は、日本国内での転職も比較的容易であり、雇用の安定性も高い傾向にあります。
5. 賃金格差の解消に向けた課題と展望
外国人労働者の賃金格差を是正し、より公正な雇用環境を整えるためには、以下のような対策が求められます。
① 技能実習制度の見直し
現状の「技能実習制度」は、労働力確保の手段として使われている面が強く、本来の目的である「技術移転」が十分に機能していません。制度の透明性を高め、実習生が適正な賃金を受け取れるような仕組みの構築が必要です。
② 賃金水準の適正化
外国人労働者の賃金は、業種や職種に応じた適正な水準が設定されるべきです。特に「技能実習」や「特定技能」の労働者が、日本人と同等の労働をしているにもかかわらず低賃金で働かされるケースが多いため、法整備による最低賃金の保証が求められます。
③ 日本語教育の充実
外国人労働者の賃金向上には、日本語能力の向上も重要です。「日本語能力試験(JLPT)」のN3以上を取得した労働者は、より良い職に就きやすい傾向があります。企業側が外国人労働者向けの日本語教育を支援することで、賃金格差の解消につながる可能性があります。
6. まとめ
「令和5年外国人雇用実態調査」から、在留資格ごとの賃金格差が明確に浮かび上がりました。特に、「技能実習」や「特定技能」の労働者は、長時間労働にもかかわらず低賃金で働いている現状があります。一方で、「専門的・技術的分野」や「身分に基づくもの」の労働者は比較的高い給与を得ています。
今後、日本の労働市場が外国人労働者を受け入れ続けるためには、より公平で透明性のある制度設計が必要です。技能実習制度の見直しや、日本語教育の充実などを通じて、外国人労働者が安心して働ける環境を整えることが求められます。